長野は隠れ「うどん」県? 信州ならではのローカルうどんたち
「ぶっこみ」、「おぶっこ」。信州ならではのうどんたち
雑誌かなにかで「全国うどん地図」というようなのを見たことがある。そこには全国の実にさまざまなうどんが載っていた。そのうどんの呼称も驚くほどバラエティに富んでいる。
うどんと呼ばずローカルな独特な名前がついている。この長野県にだってそういうさまざまな名前がついたうどんが十近くもあるのだから、全国にはどれくらいあるものは想像つかない。
よその県のものはさておき、信州のうどんについて、「しなの食物誌(田中磐著信濃毎日新聞社刊)」、農村漁村文化協会編「聞き書き 長野の食事」などで調べてみた。
十近くといったが、煮込みうどんにしても同じような材料・作り方のものでも、地域によって違う名前がついているものも多い。
「ぶっこみ(おぶっこみ)」、「おぶっこ」、善光寺平・西山地方の煮込みうどん。長野市へ来てこういう言い方をしているのを初めて知った。
長野市の周辺部、農家の食べもの。いわゆるうどんよりかなり幅広の太い麺の煮込みである。
小麦粉を水で固めて薄くのし、綿棒に巻き付けて、上から綿棒に沿って包丁を入れる。これを開き、六分幅に切る。
大根、じゃがいも、ねぎなど時期の野菜をたっぷり入れた味噌汁をつくり、この中へ切った麺を入れて煮る。寒い夜熱いところをおわんに盛って、ふうふうといって食べる。
今では農家でも、よっぽどこのうどんが好きなおじいさんおばあさんがいる家でもなければ、常時はやっていないではないだろうか。
20年位前までは、夕食は決まってこのおぶっこを食べるという家もあったようである。じいちゃんばあちゃんはこのうどん、新しい食生活に慣れた息子夫婦と子供達は別メニューという光景も...。
このぶっこみ、おぶっこは県内の地方によっては、ブチイレ、ノシコミ、キリコミ、単にニコミとも呼ぶようだ。伊那地方の「おはっと」も麺の作り方は多少異なっていても、味噌または醤油の煮込みうどん。
「おとうじ」、「お煮掛け」、麺類をなるべく細くソーメン状に切って、ゆでる。一方大鍋に季節の野菜や凍み豆腐、油揚げなどをたっぷり入れて味噌汁(醤油味の時も)を作る。
先ず、とうじかごに一人前のソーメンを入れ、これを汁の中にそのまま入れ、箸で野菜などの具をのせソーメンにたっぷり汁を含ませるようにわんに盛る。
大根おろしやゴマ汁、クルミ汁(ゴマ・クルミをすり、煮汁でのばす)を掛けて食べる。寒い夜など、おなかの中まで暖まるという。
私も名前は聞いていたが、実際に食べたのは数年前である。冠婚葬祭の客寄せの際、これでもてなす。長野の西山地区や東信の郷土食。なお西山とは長野市の西部(小田切・七二会・信更)と上水内郡の西山部、中条村・小川村・信州新町を指す。
なお、とうじかごはうどん一玉分が入るほどの小さなザルで30センチほどの柄が付いている。お煮掛けは秋から春の食べものである。また、お煮掛けはうどんでなく蕎麦の場合もある。