料理で町は元気になる。過疎地に80万人の観光客を呼んだ奇跡のシェフ

TRiP EDiTOR編集部
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2017/08/22

「美しい町」が「美味しい町」へ~農家も変えた凄腕料理人

実は「美瑛選果」もオーベルジュも仕掛け人は同一人物。ラパンフーヅ社長中道博(65歳)だ。その中道は「火を入れたり、味をつけたり、ソースを作るのも料理だけど、もっと素材のほうが大事なんじゃないかと思っている」と語る。

ラパンフーヅの本拠地は札幌。フレンチ・レストランモリエール」がある。ここはミシュランで三つ星を取った日本に3軒しかないフレンチ・レストランのひとつ。中道はこの名店を愛弟子の今智行シェフと共に守ってきた。

この店でも「美味しいの上を行く驚きや感動を仕掛けている。 例えば木の枝を何に使うのかと思ったら、そこに料理を盛り付けた。ふきのとうの揚げ物。その中にはたっぷりのホタテのムースが詰めてあった。しかも客には、より香りが感じられるよう手掴みを提案する。

中道のオリジナルで、通称「ロケット」は、北海道名物の駅弁にもなっている料理をフレンチ風にアレンジしたもの。イカの身を切り分けると中からリゾットが現れる。イカ飯だ。

こんな三つ星フレンチのフルコースが8800円から味わえる。ここにも客は遠くからわざわざ足を運んで来る。中道はこの三つ星レストランを含め、7つのレストランを営む、合計六つ星という凄腕料理人なのだ。

料理の力で客を呼び寄せ、町まで変えた中道。この日、「美瑛選果」で待ち合わせていたのは、「JAびえい」の北野和男常務理事。JAの施設に中道を引っ張り込んだ張本人だ。中道のやり方には大きな影響を受けたと言う。

「アスパラ料理でランチが7000円。それでも東京から食べにくる。やっぱりこれではないか、と」(北野さん)

美瑛の野菜は少し高くても売れる。そう気付いた「JAびえい」は、今まで市場に出荷していただけだった野菜を直売所やネットで売り出した。そしてブランド化に成功したのだ。

地元野菜のブランド化に成功した「JAびえい」はオリジナル商品の開発も始めた。特産のトウモロコシを使った「焼きとうきび」。フリーズドライになっている。これが今、「美瑛選果」では売れ筋ナンバーワン。


中道と出会い、挑戦する集団に変わった「JAびえい」。第2、第3のヒット商品も生まれている。かつて先行きに不安を抱えていた「JAびえい」の売り上げは1.5倍に。町は「美しい美瑛」から「美味しい美瑛」に生まれ変わったのだ。

「今日来てくれる方に喜んでもらって、また来てもらう。その積み重ねなので、とにかく喜んでもらおうとやってきたということですね」(中道)

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三ツ星シェフが挑んだ人気宿の秘密

札幌「モリエール」の朝10時。中道が見るからに落ち着かない。この日は、ミシュランの新たな格付けの発表当日だった。ところが10時を過ぎても電話がかかってこない。いつもはどっしり構えている中道が焦っていた。

その時、電話が鳴った。今回も三つ星を守ったのだ。

ラパンフーヅは三ツ星の「モリエール」の他にも3軒の店で一つ星を獲得している。今やフレンチでは日本屈指の料理人集団を率いる中道は、いかにして町おこしに関わるようになったのか。

中道は1951年、登別の生まれ。19歳から札幌のホテルに入り、料理人修行を始めた。23歳の時には外の世界が見てみたいと、言葉もできないままフランスへ。寝る間を惜しんで修行を積み、33歳で自分の店、「モリエール」を開いた。

その後、ある村との出会いが、中道の料理人人生の転機となる。その村とは蝦夷富士・羊蹄山を臨む真狩村(まっかりむら)だ。

ここに中道は20年前、「マッカリーナ」というオーベルジュを作った。現在は2ヶ月先まで予約が埋まっている人気の泊まれるレストラン。料金は朝食付きで1泊2万4000円~。客は料金に含まれていない夕食を楽しみに来る

朝、クマザサをかき分けて歩いていたのはシェフの菅谷伸一だ。天然の食材を採りに来た。2日に1回は山に入り、山菜を調達している。この日、狙っていたのは山菜の王様、タラの芽だ。

厨房で料理人の顔になった菅谷。朝採ってきたタラの芽はディナーの食材に使われていた。天ぷらではなくフリッターに。メインディッシュは北海道のブランド牛を使ったロースステーキ。そこに添えられる野菜としてタラの芽が使われた。これだけのために山に分け入っているのだ。

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