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米国ホテルの栄枯盛衰。「グランドハイアットNY」を導いたトランプ物語

ケニー・奥谷
ケニー・奥谷
2019/05/08

ドナルド・トランプの出世作

グランドハイアットホテル(アメリカ)image by:Tupungato / Shutterstock.com

コモドア。それは海軍における位を示す称号。現在、アメリカ海軍では使われなくなったが、以前はキャプテンの上に立つ司令官を示していた。もともとは、蒸気船に従事する者につけられたニックネームだったが、1840年後半になると、そのニックネームで呼ばれる者は蒸気船輸送業の覇者となったコモドア・バンダービルトだけになっていた。

後に、コモドア・バンダービルトは、蒸気船から鉄道へと進出し、鉄道王バンダービルトと呼ばれるようになり、巨万の富を築いた。アメリカ史に残る3大富豪といえば、ジョン・ロックフェラーアンドリュー・カーネギー。そして、コーネリアス・バンダービルトが挙げられる。

1869年、彼によりグランド・セントラル・ターミナルの前身であるグランド・セントラル・デポが建設された。さらに、1913年、デポはグランド・セントラルターミナルへと改築され、1919年、それに隣接するコモドア・ホテルが建設された。

約2,000室からなる巨大ホテルは、世界一美しいと称されるロビーを備えていた。しかし、1970年代になると、スタグフレーションに苦しむアメリカ経済の波を受け、業績は悪化、解体への道を歩みだすことになる。

フレッドがトランプの後ろから歩み寄り、両肩に手をおいた。トランプは振り向いて父の顔を見た。

「どうした?ドナルド、コモドアホテルを買い取る話がうまく行っていないのか?」

「資金が足りないんだ。オーナーのペン・セントラルは既に、僕が提案したオプションを受け入れたんだけど。。。。」

トランプは小さな声で言った。

「いくら足りないんだ?」


「25万ドル」

「そうか。。。いい考えがあるから、少し待っていろ」

翌日、フレッドはブルックリン選出の民主党議員からニューヨーク市長になった、アブラハム・ビームを訪ねた。

市長とのミーティングから戻ったフレッドは言った。

「市長と話をしてきた。副市長のスタンレイ・フリードマンがお前を手伝ってくれることになっている。上手に交渉しろ。きっとうまくいく」

トランプはフリードマンを通して市と交渉し、コモドア・ホテル購入に際し、40年間に渡る400ミリオンダラーまでの特別減税措置を獲得した。そして、ハイアット・ホテルズにアプローチし、運営に関してのパートナー契約を結ぶ。これで、投資家たちが投資をしたくなる素晴らしい素材が揃った。

image by:James Kirkikis / Shutterstock.com

後日、「ニューヨーク市が破綻しかけているというのに、このような減税はどうかしている!」という批判が起こった。また、「ペン・セントラルとの売買契約書の代わりに、サインの入っていない提案書を提出し、あたかも頭金の支払いを済ませて、契約が完了しているかのように見せかけて、ハイアットと交渉を行った」というような記事が書かれるようにもなった。

だが、彼が投資を募り、コモドア・ホテルを購入し、100ミリオンダラーをかけて大改装を行ったことは事実。この成功により、彼の名は世に広く知られるようになった。そして、トランプは、自身のニゴシエーターとしての手腕をアピールしだす。

コモドア・ホテルの外壁は、後のトランプのトレードマークとなるガラスで覆われ、内部のほとんどは一新された。1980年9月25日、グランドハイアットとしてリオープンし、オープニングセレモニーには州知事と市長も参席した。

これで勢いに乗ったトランプは、1983年、フィフスアベニューの56ストリートに、自宅の入ったトランプタワーを完成させ、1988年のプラザホテル買収へと向かう。しかし、世の中は山あり谷ありということを、プラザホテル買収後、彼は痛いほど味わうことになる。

ケニー・奥谷

奥谷啓介、NY在住。慶応義塾大学卒業後、ウエスティンホテルズ入社。シンガポールのウエスティン、サイパンのハイアット、そして世界屈指の名門ホテル・NYのプラザホテルに勤務。2001年米国永住権を取得、現在はNYを拠点に執筆&講演&コンサルタント活動中。日米企業にクライアントを持ち、サービス・売り上げ・利益向上の指導からPR&マーケティングまでのマルチワークをこなす。
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