なぜ…各地の「顔出し看板」で顔を出さずに、穴を覗き込んで撮影する男の正体

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2024/02/10

顔出し看板の「穴」を覗き続ける謎の男

顔出し看板の穴から覗く明石海峡大橋 image by:DAI

観光地や商店街でよく目にする「顔出し看板」。ご当地キャラクターなどが描かれた等身大パネルの裏から顔を出せるように、穴をあけた立て看板のことです。あなたも旅先で、顔をハメて写真を撮った経験があるのでは。画像を見返すたびに楽しかった旅やレジャーの記憶が蘇る「顔出し看板」は、まさに街の「顔役」と言える存在なのです。

「顔出し看板」はその名の通り、一般的には「穴から顔を出して撮影する」のがトラディショナルな使い方。しかし、なかには「顔を出さずに、穴を覗き込んで撮影し続けている」ユニークな人がいます。この男性はInstagramに2017年からなんと約230枚(2024年1月現在)もの「顔出し看板の穴を覗く」画像をアップし続けているのです。

「顔出し看板」の存在意義を根底からひっくり返すこの男性。いったいなぜそんなことをしているのか。穴の向こうに広がる世界とは?お話をうかがいました。

絵柄を隠さないのが「パネルに対する敬意」

おそらく日本で唯一の「逆:顔出しスト」DAIさん image by:吉村智樹

神戸市にお住いのハンドルネーム「DAI」さん(45)。彼は「顔出し看板」の穴を覗き込んで撮影し続ける、おそらく日本で唯一の「逆:顔出しスト」です。各地の顔出し看板をiPhoneで撮影し、Twitter(現:X)に2013年から、Instagramでは2017年から、投稿を続けています。

顔出し看板の穴を覗く画像がズラリと並んだDAIさんのInstagram

DAIさんは身長181cmという巨漢。大きな体躯を屈ませながら撮影する姿が、なんともユーモラスです。

DAIパネルを隠さないように撮影するのがこだわりです。絵柄が隠れちゃうと面白みがないし、隠さないのがパネルに対する敬意だと思っているので。でも身体がデカいんで、いつも苦心します」

河童の絵が隠れないように足の位置を工夫 image by:DAI

確かにどの画像も、顔出し看板の肝要なポイントをなんとか隠さぬよう、カメラの角度やポーズを工夫した形跡が。四苦八苦している様子が見受けられ、そこがまた微笑ましい。

穴の位置が極端に低い。かなりの強敵だ image by:DAI
逆にこれは穴の位置が高すぎる…… image by:DAI
低い穴制圧に姪っ子さんも参戦 image by:DAI

DAI「穴が極端に低い位置にあって、『これ、顔を出させる気ないやろ』としか思えない、クセが強いものもありますね


越前そばの顔出し看板は、手前にそばの花を添えて image by:DAI

もがきながらの撮影は、バッグを三脚代わりにしながらカメラのポジションを決め、セルフタイマーでローアングルから狙います。なかには「花越しに撮る」なんてビューティな構図もあるのです

「なんで顔を出して撮らないの?」と怪しまれる

撮影中は周囲から「なんで顔を出して撮らないの?」と怪しまれるという image by:吉村智樹

このように、ほぼ一人で撮影しているDAIさん。しかし、絵柄や立ち位置によっては、シャッターを人に頼まなければならない場合もあります。

DAI「妻が一緒にいるときは妻に撮ってもらうのですが、1人だったら、近くのお店の方などにシャッターを切ってもらうよう頼みます。怪訝な表情で、『何なの?この人』『なんで顔を出して撮らないの?』って怪しまれながら撮ってもらうのが日常です。ギリギリの行動ですよね。理解されることはまずないです

通行人が多そうな駅構内でも果敢にチャレンジ。顔出しだけではなく運転席まであって楽しそうな撮影スポット image by:DAI

白い眼で見られながら、それでも続ける「顔出し看板の顔出さない撮影」。そこまで顔を出さないことをポリシーにするなんて、まるで「adoか」と思うほどのアーティスト性を感じてしまいます。


お葬式の行き帰りに顔出し看板を見つける場合も

DAIさんが住む兵庫県にも顔出し看板がたくさんある。余部鉄橋の足元には異様にリアルな顔出し魚が image by:DAI

撮影の範囲は、東は東京、西は広島まで。「ほぼ近畿地方で撮影している」と言います。撮影ポイントが近畿に集中するのには理由がありました。

DAI「仕事が葬祭業、いわゆる『葬儀屋さん』なんです。基本的に24時間、365日、出勤体制にあります。お式の担当になれば、お迎えへにうかがうところから葬儀の司会まで全部やるんです。だから休みが不定で、連休はまず取れません。休める日は日帰りでちょこちょこ旅をするのが好きなので、撮影はどうしても自分が住んでいる神戸から近距離になりますね」

六甲ミーツアートに出展された「顔はめコーナー」。いい味出してるイラストと顔のオブジェ image by:DAI

お仕事が葬儀屋さんだったとは。Instagramに並んだ画像の数々を見て、「まるで彼岸の世界を覗いているようだ」と感じたのも、あながちはずれてはいなかったようです。

DAI「葬儀の仕事をしているので、お寺へのごあいさつ回りなどで日常的に自動車の運転をします。そして運転中に街で顔出し看板をよく見つけるんです。『あ、あそこにある!』って。とはいえ仕事中に引き返すわけにはいきません。場所を記憶しておき、後日、看板があった場所を訪れます

お坊さんたちがジャンプ! 寺院にも顔出し看板が image by:DAI

「引き返すわけにはいかない」という点も、葬儀のお仕事の内容につながっている気もしますね(ちょっと強引でしょうか)。

きっかけは「推しのアイドルの真似だった」

「干される」ってこういう気持ちか image by:DAI

DAIさんはどうして顔出し看板を撮影するようになったのでしょう。

DAI「きっかけは、アイドルなんです

え? ア、アイドル?

DAI「はい。アイドルなんです。2013年のころ、オール神戸っ子で結成されたローカルアイドル“KOBerrieS♪”(コウベリーズ)にハマっていまして。メンバーが投稿した画像を真似て撮るのが、ごく一部のオタクのあいだで流行っていたんです

ほお。それで?

DAI「メンバーのみのりかなさん(現在はシンガー・ソングライターとして活躍)が顔出し看板の画像をSNSにアップしていたんです。それを見て、『自分も撮ってみよう』と。とはいえ、ファンである自分が彼女と同じように顔を出すのは違うかなと考え、あえて表側から覗き込むように撮ったんです。その画像が、けっこうウケまして『顔出しパネルなのに顔以外、全部出てもーてるやん』って

なんと、DAIさんの顔出し看板撮影を始めたのは、アイドルのSNS投稿がきっかけでした。アイドルが顔を出し、まるでそれを眺めるような位置にDAIさんがいる。偶然とはいえ、アイドルのステージをファンが見つめているのと同じ構図になったのです。

アイドルを経て、現在は顔出し看板を推す日々だ image by:吉村智樹

それにしても、アイドルの追体験からスタートした顔出し看板撮影が、その後10年以上も続いているのは、なぜでしょうか。

DAI「完全に『辞めどきを失った』としか言いようがないです(苦笑)。1枚きりで終わるつもりだったのですが、ウケるorウケない関係なく、顔出し看板を見つけたら撮る習慣がついてしまって。次第にライフワークになっていった感じですね

看板は突然現れるのに探すと見つからない

顔出し看板は突然ぽつんと現れる image by:DAI

では、顔出し看板は、どのように見つけるのでしょう。

DAI「う~ん……顔出し看板って、いまだに探し方がわからないんですよ。観光地だから必ずあるわけではないんです。反面、なんてことない街を歩いていて、たまたま見つける場合もあります。だからあえて、血眼になって探しはしません。偶然に身を任せ、『出会えたらラッキー』あれば『ついてるな』という気持ちですね」

ごく普通の街角にも突然現れるから油断できない image by:DAI

ふとした時に出会えるのに、探すと意外と見つからない。顔出し看板は幻のような不思議な存在です。そしてDAIさんは「ラッキーだからこそ出会いに感謝し、その看板の世界観をリスペクトする」のだとか。

チャップリンのトレードマークである山高帽を持参し、ポーズも喜劇王ふうに image by:DAI

DAI「見つけても、すぐに撮らない場合もありますね。たとえば和風のイラストだったら後日、浴衣を着ていったり、イースターだったらわざわざ頭にうさ耳をつけて、ちゃんとうさぎの尻尾もつけたり。チャップリンなら山高帽をかぶり、ポーズもつけて。そんなふうに看板に『大好きだよ!』『ここにこれて楽しかったよ!』って気持ちを伝えます

「あぐろの湯」はアフロのウィッグを用意。アフロでおふろ image by:DAI

顔出し看板をまるで推しのアイドルのように愛おしむDAIさん。彼が言う「街を歩いていたら、たまたま見つかる」現象は、看板たちに愛する気持ちが伝わっているから起きるのかもしれません。

穴の向こうには想像の世界が広がっている

タイの顔出し看板では、穴の向こうにいる人と「ずっと目が合っていた」という image by:DAI

10年以上に亘り、「顔を出さずの顔出し看板」を投稿し続けるDAIさん。覗き込む穴の向こうには、いったい何が見えているのでしょう。

DAI「それは、皆さんの呆れた顔ですね(苦笑)。以前、タイで顔出し看板を覗いて撮っていたら、穴の向こうでガパオライスを食べている現地の人とずっと目が合っていたんです。きっと、『変なアジア人だ』と思ってたんじゃないかな。SNSに投稿したあとも、見た人が『なんでこんなことしてんの?』と感じているでしょう。でも、それが快感というか。いろんな人の想像力を働かせる行為なんだと思うんです。僕自身が楽しいだけではなく、『僕の姿を見て楽しんでほしい』という気持ちが、心のどこかにあるんでしょうね」

「顔を出さずに、穴を覗き込んで撮影する」という、誰もやっていないオリジナルな旅をするDAIさん。旅行の際は彼のように、ちょっと視点を変えてみるといいかも。あなただけの「穴」場が見つかるかもしれません。

DAIさんinstagram

  • image by:DAI
  • ※掲載時の情報です。内容は変更になる可能性があります。
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京都在住の放送作家兼フリーライター。街歩きと路上観察をライフワークとし、街で撮ったヘンな看板などを集めた関西版VOW三部作(宝島社)を上梓。新刊は『恐怖電視台』(竹書房)『ジワジワ来る関西』(扶桑社)。テレビは『LIFE夢のカタチ』(朝日放送)『京都浪漫』(KB京都/BS11)『おとなの秘密基地』(テレビ愛知)に参加。まぐまぐにて「まぬけもの中毒」というメールマガジンをほぼ日刊で発行している(購読無料)。

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