平和を願う広島の街に溶け込んだ、巨匠イサム・ノグチの斬新な欄干
日米を拠点として、彫刻家や画家など様々分野で才能を発揮したイサム・ノグチ。日本各地でも数々の作品をのこしました。
その中には、1952年に完成した広島の平和大橋・西平和大橋もあります。ノグチ氏がデザインした、2つの橋の欄干はいまでも広島の街の風景に溶け込んでいます。
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巨匠イサム・ノグチが欄干をデザインした2つの橋
広島県の観光キャンペーンが成功したおかげで、広島を旅する人が増えているのは広島人としては大変嬉しいこと。トリップアドバイザーの『外国人に人気の観光スポットランキング2017』でも3位に『広島平和記念資料館』、4位に『厳島神社』がランキングしております。
さて、原爆ドームや広島平和記念資料館のある広島平和記念公園に行かれたら、ぜひ1952年に完成したある橋を訪れてほしいと思います。日本とアメリカを祖国にもつアーティスト、故イサム・ノグチ(1904〜1988)が欄干をデザインしたもので、今こそこの地にしっくり溶け込んでいますが、建設された当時は斬新なデザインが人々を驚かせたそう。
イサム・ノグチといえば、彫刻家として知られていますが、庭園、モニュメント、インテリアや舞台美術まで、幅広く手がけてきたアートの巨匠。彼に橋の欄干のデザインを依頼したのは、建築家の丹下健三。東京都庁の設計をされた方ですね。
1949年に広島市が原爆投下された街の復興のために公募した「平和記念都市計画コンペ」で東京大学建築学科助教授丹下健三研究室の案が一等当選したことから、すでに広島の平和施設に関わっていた丹下は親交のあったイサム・ノグチが日米共存の夢を託す仕事をしたいことを知り、彼を橋の欄干のデザイナーに抜擢。
橋の建設は建設省の管轄で、近隣の平和記念公園への導線として違和感のないデザインが望まれたといいます。イサム・ノグチは1951年6月に広島を視察し、焼け野原にバラックが建ち並ぶ街を歩き、進行中だった橋の基礎工事の様子をライカにおさめたといいます。
彼が欄干をデザインした2つの橋は平和資料館が面している平和大通り(幅員100mの通り。地元の人は「100メートル道路」と呼んでいます)で見られます。
歩いてみましょう。
これが太田川に架かっているのが「西平和大橋」(全長約101m)。
末端を和船の舳先の形にし、離別の理念をもって、この橋の名前は「ゆく(逝く)」。ミッドセンチュリーな意匠を感じます。
橋を渡ると左手に「広島平和記念資料館」が見え、対面には18種の文字と49の言語で「平和」の文字が刻まれたパブリックアート『平和の門』が見えます。これは被曝60周年の2005年に仏人芸術家クララ・アルテール氏と建築家ジャン=ミシェル・ヴィルモット氏が制作したもの。
しばらく歩くと、元安川に架かっているのが「平和大橋」(全長約86m)。
イサム・ノグチは当初、この橋を「いきる」と名付けていましたが、同じ時期に黒澤明の『生きる』という映画が封切られ、「つくる」という名前に変更したそう。球体を半分に割った天を仰ぐようなデザインに力強さを感じませんか? この橋はそのユニークな造形から戦後のヒロシマの子どもたちの格好の遊び場になったようです。
ここで閑話休題。欄干のデザインにまつわるこんなエピソードを紹介しましょう。
ドウス昌代さんの著作『イサム・ノグチ 宿命の越境者 下』によると、欄干デザインのため広島を視察した1ヶ月、イサム・ノグチはハリウッド映画に出演していた当時の恋人、山口淑子(李紅蘭。後に2人は結婚)のスタジオ控室にあった鏡台を机代わりにして、欄干のデザイン画を制作したのだそう。
ノグチ氏は仕事場を選ばない方だったようですね。ハリウッドから送られたデザインは丹下研究室に送られ、大谷幸夫氏がスケッチから施工図を起こしました。
さて、この橋はある世界的なデザイナーにインスピレーションを与えてきました。
それは広島市出身のデザイナー三宅一生。生前のイサム・ノグチと親交が深く「父」として慕っていた三宅一生は「この橋の近くに住み、橋を眺め、渡りながら、人を励ますデザインの力を初めて意識したのです」と語り、パリでの修行中もこの橋を思い出しながら、ファッションデザインの研鑽を積んだとか。
丹下健三も「(前略)この橋は当時の人々を驚かせたものでるが、ここの環境とスケールに調和し、ここの空間を正気づけている。彼ほど空間を知ってる彫刻家は世界にも、まずいないだろう」(朝日ジャーナル、1960年10月29日号)という言葉を残しています。同じく建築家の安藤忠雄も広島やイサム・ノグチを語る時、しばしばこの橋についてふれています。
イサム・ノグチが広島に残した作品はこの橋の欄干のみ。平和記念公園に行かれたらぜひ巨匠が制作したアートな欄干を見て、橋を渡って広島の水と緑を感じるのはいかがでしょうか。
- image by:御田けいこ
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