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おじさん、頭にコケが!? 岸和田市で環境緑化に取り組む「苔おじさん」

吉村 智樹
吉村 智樹
2018/02/14

苔は「環境緑化推進」のメッセージだった

ときには街ゆく人たちからコケにされながらも、はつらつと苔生活を送る泉原さん。それにしても、いったいなぜ苔の帽子をかぶったり、屋根に苔をトッピングした車を走らせたりしているのでしょう?

 

泉原「理由は『地球温暖化防止と、そのための環境緑化を推進したい』という想いからです。大阪にもっと緑を増やし、環境をよくしたい。東京は都市に緑を増やすため、建物に屋上緑化や壁面緑化をほどこした事例が増えていますよね。東京は街に緑が増えてきている。そやけど大阪は遅れていると思うんです。苔を載せたこの車や帽子はもっと『緑視率』(りょくしりつ)をあげていこうよ、という私からのメッセージなんです」

 

実は泉原さんは「大阪府地球温暖化防止活動推進員」「岸和田市環境審議会委員」をつとめる、ひじょうにエコな方。また「やあね、こけちゃっカー」による緑化の呼びかけが評価され、環境省が選ぶ「グッドライフアワード」や総務省が選ぶ「エコジャパンカップ」に入賞した経験も。

 

自ら「苔おじさん」となって環境緑化の大切さを訴える泉原さんの活動は高く評価され、表彰されることもしばしば
▲自ら「苔おじさん」となって環境緑化の大切さを訴える泉原さんの活動は高く評価され、表彰されることもしばしば

 

そんな泉原さんが気にする「緑視率」とは、樹木などが視野を占める「みどりの面積」の比率のこと。国土交通省が行った調査によると「緑視率がおよそ25%を超えると人は『緑が多い』と感じ始める」という結果が出ています。そして大阪府が平成27年に公表した「まちの緑視率」によると、大阪府民が感じる緑視率の割合は、わずか1%。なるほど、これは少ない。泉原さんは、愛する生まれ育った大阪のため、さらに日本のために、自らを緑化しながらそれを訴えていたのです。

 

車に苔を装着したら「燃費が下がった」

さらに、この「やあね、こけちゃっカー」には、メッセージを伝えるだけではなく、具体的な利点もあるのだそう。

 

泉原「屋根を苔で覆ってからというもの、夏場にクーラーをかけたことがないんです。燃費が下がりました。車は基本“陸屋根”(ろくやね。傾きをつけず、ほとんど平らに造った屋根)でしょう。陸屋根は直射日光がそのまんま全面に当たるので、夏はものすごく熱くなるんです。さらにその熱が車内にも伝わり、どうしても運転中に冷房をかけざるをえない。そうするとお金がかかるし、余計なエネルギーを使ってしまいます。ところが屋根を緑化すると植物が光を反射し、さらに熱を吸収するため、屋根や車体が熱くならず快適に過ごせるんです

 

マジですか! 屋根を苔で覆うだけで、自動車のエアコンをつけずに過ごせるようになるとは驚きました。

 

泉原「もちろん『今日はさすがに暑いな』という日もあります。でも省エネをメッセージしている車が冷房をつけると本末転倒やから、意地でもクーラーをつけず、窓を全開にして走ってます(笑)」

 

ああ、まだまだ改良の余地はあるようです。

 

クリーニング業を営みながら高校では講師も

そんな苔マン泉原さんと植物のかかわりは、幼少期にさかのぼります。

 

泉原「父親は鉢物の園芸商を営んでいました。草花をいつくしみながら仕事をする父の背中を見て育つなかで、自然と植物に興味をいだくようになったし、植物と人とのつながりを勉強したくて園芸高校を選んだんです」

 

泉原さんはそうして大阪府立園芸高等学校の造園科を経て大阪府立大学に進学。大学在学中に母校での仕事を手伝い、卒業後は同高校「環境緑化科」で教鞭をふるいます。教職を退いたのち平成8年に集配専門のクリーニングサービスを起業しますが、「泉原さんの授業は面白くてわかりやすい」と評判を呼び、大阪府立貝塚高等学校や同府立横山高等学校で造園学などの講師を受け持ち、3年前まで教壇とクリーニング集配の二足のわらじ状態だったというから驚き。

 

なんと「13年がかり」で車の屋根に苔を積載

そんな慌ただしい日々のなか、泉原さんは「仕事で使う集配車の屋根に苔を備えつける」という大胆きわまりないアイデアを生みだします。

 

泉原「東京で盛んにおこなわれている屋上緑化を『僕もやるべきや』と考えました。そして『いっそ“車の屋上”を緑化でけへんかな』と。僕にとって店舗というたら、この車ですから。『光合成して、二酸化炭素を吸って酸素を放出する車、これはいいぞ!』……と思いついてから実現までに13年かかりました。ああやない、こうやないと、長い試行錯誤がありましたねえ」

 

こうして始まった世にも珍しい自動車緑化プロジェクト……ですが、そうやすやすとことはうまく運びません。芝やつるくさなどさまざまな植物で試したものの、育成のために土を必要とすることや、水をやる際の排水の問題が解決せず断念。そこでたどり着いたのが「苔」。

 

泉原「苔なら根っこを張らないし、雨水だけで生きるから水をやる手間もない。道端でかぴかぴに縮んだ苔、見たことありますか? 雨が降ったら生きかえって緑が映えるでしょう? 苔って自ら仮死状態になって、次に雨が降るまでじっと待っている。そして雨が降ると復活する特性があるんです。この蘇生の瞬間がいとおしくてね。かわいいんです。苔はほんまに環境緑化にふさわしい植物やと思います。壁面でも育ちますし、CO 2の削減になる。観ていて心理的な安定ももたらしてくれます。育て方が簡単な苔が活躍する時代がこれから来ると思いますね」

 

育てる手間がかからない愛らしい苔。これを冠載すると決めたものの、今度は「苔をどうやって安定させたまま車の屋根に這わせるかを悩みに悩んだ」と泉原さんは云います。さらに最大の難関は……。

 

泉原「一番の難関は……妻でした。『そんな車いらん。そんなんで街を走ったら恥ずかしい』『そんな車であんたの隣に座るのは絶対いやや』と激しく抵抗されました。説得に長いことかかりました。え、いまですか? いまは……やっぱり、いやがってます(笑)」

 

吉村 智樹

京都在住の放送作家兼フリーライター。街歩きと路上観察をライフワークとし、街で撮ったヘンな看板などを集めた関西版VOW三部作(宝島社)を上梓。新刊は『恐怖電視台』(竹書房)『ジワジワ来る関西』(扶桑社)。テレビは『LIFE夢のカタチ』(朝日放送)『京都浪漫』(KB京都/BS11)『おとなの秘密基地』(テレビ愛知)に参加。まぐまぐにて「まぬけもの中毒」というメールマガジンをほぼ日刊で発行している(購読無料)。

おじさん、頭にコケが!? 岸和田市で環境緑化に取り組む「苔おじさん」
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