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おっちゃん、カッコええやん。「地元住民のポスター」が起こした観光業界の革命とは

吉村 智樹
吉村 智樹
2019/03/07

「うちの過疎化を食い止めて」と日本中から依頼が殺到

話題性だけではなく利益をお店に供与できたこの文の里商店街ポスター展により、日下さんは「佐治敬三賞」を受賞。プロジェクトそのものは、なんと16もの賞に輝きました。

こうして成功体験を重ね、ノウハウが構築されてゆくと、「うちの商店街でもポスターを」「うちの過疎化を食い止めて」と、日本中から依頼が続々と舞い込むように。

日下
オファーがめちゃめちゃ来ました。でも、なんとなく面白そうとか、儲かるというイメージだけでの依頼は勘弁してほしい。きちんとひと肌脱いでくれるところとやりたい。そんな気持ちが強くなりました

「おもろいポスターで町おこし」に新たな難題が

日本中の商店街から「おもろいポスターでの町おこし」の依頼が殺到しましたが、同じパターンを繰り返していても仕方がない。

そのようななか、日下さんはあるひとつの依頼に食指が動きました。それは兵庫県伊丹市西台(いたみし にしだい)の自治体からの、言わば「難題」だったのです。

日下
「聞けば、商店街じゃないんです。500メートル四方の街を活性化させるための依頼でした。商店街ならそこをまっすぐ歩けばポスターが自然に目に入る状況ですが、広い範囲だとそうはいかない。どうしたもんかなと考えたし、だからこそやりがいも感じたんです

西台は阪急「伊丹」駅の西側に位置するエリア。過去のアーケード商店街はギャラリー化が可能でしたが、街ごととなると、そうはいきません。

これまで2回なし終えた経験の多くが、ここではまるで使えない。「これは、そう簡単にはいかへんな」と考えた日下さんが、まず確認したのが、商店主たちが「ポスターを作って街に訪問客を呼び寄せたいと本気で考えているか」。街の人々の意志統一。これができているかどうかでした。

日下
「文の里商店街での反省を踏まえ、お店の人が全員わかっててくれている状態から始めたかった。主役はクリエイターではなく、あくまで街の人々ですから。さらに今回は商店街ではない。規模の大きさが違うので過去の経験は、ほぼ役に立たない。ポスターの話題性だけでは企画がもたないし、なにより訪れた人たちをがっかりさせてしまう。なので僕は『皆さん、一致団結してもらえますか?』と問いました。すると『なんでもやります』と答えてくれて。それでスタートできたんです」


店主の熱意を確かめながらポスター作りの取材を進める日下さん

「おトク」か「おもろい」か。サービスを選択できるシステム

そこへさえ来ればポスターを一気に鑑賞できるアーケード商店街と違い、街のあちこちに貼ってあるという状況。へたすれば緩慢で、誰も興味を示さないおそれがある。

されど反面、ポスターによって街全体が楽しい雰囲気に包まれ、観光化ができるのであれば、ポスターが引き起こす動員力が本物であると証明できる。日下さんは頭を悩ませ、あるアイデアを思いつきます。

日下
「ポスターだけではなく、貼られた場所を記載した朱院帖みたいなマップを作ったんです。しかも単なるマップではなくクーポン券のかわりになるという。『街のポスター展』を体感してもらうには、ポスターを見るために回遊してもらうしかないですから」

ポスターが貼られた店を回遊しスタンプを押すことができる朱印帖を兼ねたマップを作成した

ポスターマップを持参して商店を訪れると、なんらかの特典がある。ここまでは、決して目新しいアイデアとは言えません。ここからが日下さんの『おもろい』精神の本領発揮でした。

日下
「クーポンを渡したら『お得なサービス』か『おもろいサービス』を選べる2択システムを採り入れたんです。たとえば理容院なら『頭皮用シャンプーが安くなる』か『モヒカンカット1000円』か。これだと、お店のなかでも楽しめるでしょう。こうして、それぞれのお店が独自の2択サービスを考えて実施してくれました」

回遊をうながすことで街そのものをギャラリー化する「伊丹西台ポスター展(2014年11月1日~2015年3月1日)は、遊びの要素を含んだこの2択アイデアが大きく当たり、店によっては150%売り上げを伸ばしました。

日下
「商店街だけではなく、街という広い範囲で試せたことで、まぐれ当たりではなく、ポスターには人を呼ぶ力があると実感できました。伊丹のこの仕事で完成形ができたかな」

商店街ではない場所でも観光客を呼ぶことに成功し「おもろいポスターには人を動かす力がある」と改めて感じた日下さん

東日本大震災の被災地にも笑顔をもたらした

ポスターで人を呼ぶ方法論が構築できた。そう確信をいだいた日下さんに、さらなる試練が訪れます。

それは宮城県の河北新報社がうちたてた東日本大震災被災地支援企画。津波で甚大な被害があった女川町一帯で開催される「今できることプロジェクト」の一環としての依頼でした。

日下さん、これまでになく迷いました。過去3回は「笑い」によって街に活力をもたらしてきましたが、女川でそれをするのは「不謹慎ではないか」と悩んだのです。

日下
「依頼を請けるかどうかで苦しみました。参加に反対する意見もありました。ポスターを作るうえで“笑い”はひじょうに重要な要素なのですが、さすがに『地震と津波でたいへんやったのに、笑いとか、どうなんかな……』と不安だったんです。震災から3年が経っていましたが、街はまだまだ回復してはいませんでしたし。これまでのポスターは商圏の振興や地域活性化のために作ってきたので、果たして被災地復興の力なんて、なれるのだろうかと」

「震災」と「笑い」、水と油のような極めて難しいマッチング。ともすれば、とても不快な表現となり、住民を傷つけてしまうおそれもある。

そうならないために、日下さんはひとつ決めたことがありました。それは外野からの視線ではなく「同じく被災地のクリエイターたちで作る」。

当事者どうしでないと、わかりあえないこともあるだろうと。そして、この発想が功を奏したのです。

日下

「皆さん、すごくやる気になってくれて。それまで自粛モードだったので、みんなモヤモヤしていたんですね。みんな、もう笑いたいんだって。『そうか。おもろいポスターには観光客を呼ぶ効果だけではなく、制作する行為そのものが地元を活気づけるんだ』と、ここでも気がつかされました」

「自分たちの表現が果たして被災地で受け容れられるだろうか?」と不安だったという。しかし多くの住民が喜んでくれた

不安な気持ちを抱えながら進行した「宮城県女川での震災復興を目的としたポスター展(2015年2月21日~5月31日)は、こうして温かく受け容れられたのです。

「6年も貼ってもらえる宣伝ポスターなんてほかにはない」

日下さんは現在も、全国規模へと広がったポスター作りの原点である大阪の新世界や文の里の商店街へと出向き、街へ立ち、往時を振り返るのだと言います。

日下

「あれから6年も経って、まだポスターを貼ってくれていているんです。大切にしてもらえている。6年も貼っていただける観光ポスターなんて、そうそうないですよ。クリエイター冥利に尽きます」

日下さんはその後も全国からのラブコールに応えて飛び回り、ときには地元高校生とポスターを作るなど、多様なチャレンジを続けています。

地方へ行くとよく「この街なんて、なにもないよ」、そんな言葉を耳にします。しかし日下さんが指揮を執るポスターを見ていると、「ここに写っているおっちゃんおばちゃんに会いたいなあ」と、しみじみと思うのです。

旅とは景勝地を眺めるだけではなく、人に会いに行くものなのだと、日下さんのポスターが教えてくれている気がします。

取材協力:日下 慶太(くさか けいた)/電通関西支社 コピーライター

  • 1976年生まれ。大阪府吹 田市出身。大学時代にユーラシア大陸を陸路で横断。チベット、カシミール、内戦中のアフガニスタンなど世界中を旅し、ロシアではスパイ容疑で拘束される。電通に入社し、コピーライターとして勤務するかたわら、写真家、「セルフ祭」実行委員、UFOを呼ぶバンド「エンバーン」のリーダーとして活動している。商店街のユニークなポスターを制作して町おこしにつなげる『商店街ポスター展』を仕掛け、佐治敬三賞を受賞。他、東京コピーライターズクラブ最高新人賞、ゆきのまち幻想文学賞など受賞多数。「ツッコミたくなる風景ばかりを集めた『隙ある風景』も日々更新。

※掲載時の情報です。内容は変更になる可能性があります。

吉村 智樹

京都在住の放送作家兼フリーライター。街歩きと路上観察をライフワークとし、街で撮ったヘンな看板などを集めた関西版VOW三部作(宝島社)を上梓。新刊は『恐怖電視台』(竹書房)『ジワジワ来る関西』(扶桑社)。テレビは『LIFE夢のカタチ』(朝日放送)『京都浪漫』(KB京都/BS11)『おとなの秘密基地』(テレビ愛知)に参加。まぐまぐにて「まぬけもの中毒」というメールマガジンをほぼ日刊で発行している(購読無料)。

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