俺たちが日本一ばい。地元民がおすすめする、都内にある九州「アンテナショップ」
熊本のスイスと歌舞伎役者のお気に入り
「ASOBI・Bar」で熊本の味を楽しんだら、1階でお土産探しです。からし蓮根や馬刺し、豆腐などの定番グルメもありますが、熊本通のお土産は「リキュールマロン」と「南関(なんかん)あげ」です。
リキュールマロンは、熊本にできた最初の洋菓子店「スイス」の看板商品です。1962年に発売され、なんと58年も売れ続けているロングセラー商品です(2020年時点)。
熊本のスイス。とても斬新なお店の名前ですが、そもそもは創業者が若いころ、世界を旅するなかでスイスに衝撃を受けたことが由来だそうです。
創業者によると「山々や湖、牧場、大空を飛ぶグライダー、ほかの土地とは違う空気でホッとするスイスの国柄が気に入った」とのことですが、これはまさに熊本そのものの説明であるといっても誰も疑うことはないでしょう。
そのリキュールマロンですが、リキュールの染み込んだ生地に、熊本県産の栗とバタークリームが挟まれています。最近ではほかで食べることがない味なのですが、食べた一言めの感想は「懐かしい」になりがちです。これは私が昭和の生まれだからなのかもしれません。
ちなみにこのリキュールマロン、発売当初から、あえて製法を変えず、頑固にオリジナルの良さを守ることを信念としているようです。この辺りもスイスらしさ、熊本らしさではありませんか。
さて一方の南関あげですが、実は最近密かなブームになっています。「密かな」というところがこれまた熊本らしいところなのですが。
というのも、この銀座熊本館のある「銀座」。もちろん日本随一の街として有名ですよね。銀座には高級なバーやクラブが立ち並び、そして歌舞伎座も近くにあります。それら華やかな世界への差し入れや手土産として、「いなりずし」を選択することがブームとなっているのです。
その証拠として最近では銀座やお隣の日本橋にいくつもの「いなりずし」が登場しました。付近で評判の高い「なみ木」「庄分酢」「だしいなり海木(かいぼく)」などのいなりずしの「あげ」は、実は「南関あげ」なのです。なお、だしいなり海木は私と同じく福岡県出身であります。
自らも九州出身で、現在東京で調理師として働く田中かおりさんによると、
「南関あげは、一般的な『あげ』よりも味が染み込みやすく、ふっくらジューシーに仕上がるので、とても美味しいいなりずしができます。乾燥させてあるので、油分が少なく、油抜きせずにそのまま使ってもとても美味しいです。
いなりずし専門店だけではなく、ご家庭でも使っていただきたいですし、手ごろなサイズにカットして鍋や味噌汁などにそのまま入れていただいても大丈夫です」とのこと。
何を隠そう、私自身、南関あげを使った「いなりずし」が大好きなのです。九州では普通に手に入るものだったのですが、東京では手に入れることができなかったので諦めていました。歌舞伎役者さんたちにもお気に入りというのが嬉しいではありませんか。さすが、一流は一流をよく分かっとるばいね~。
東京から故郷へ思いを馳せるということ
さて、この銀座熊本館、やはり「銀座」という日本で最も地価が高い場所で勝負しているわけです。日本でビジネス、とくに不動産に関わる人間なら誰もが、その場所がいかに特別であるかということを知っています。
最も地価が高いということは、売っている商品やサービスの品質が最も高くなければならないということです。そうでなければ、すぐに淘汰されてしまう。それが銀座の特別たる所以です。
銀座熊本館の杉村輝彦さんは、「ここは単なるショップではありません。熊本の仕事人の勝負の場です。熊本の先人たちがこの銀座という場所で勝負できる舞台を作ってくれたのだから、熊本から銀座へ出てくるという勝負、銀座から日本全国への勝負、そして世界へとステップアップしていく勝負です。ですから銀座熊本館に携わるスタッフはそれらを応援するつなぎ役としてとても重要な役割をもっていると思います」と語ります。
昨今、熊本では毎年のように自然災害に見舞われ、今年はさらにコロナの影響もあって、とても苦しい時期を過ごしています。
例えば球磨焼酎の蔵元のなかには、先の豪雨災害で原酒が全て流れてしまったところもあるようです。その辛さは、仕事をしている大人であれば想像に難くありません。
「熊本人はきつくても苦しくても表に出さずに耐えるという性質です。でも、こういう時期だからこそ、私たちは地元のアンテナショップとして、地元の方の心のよりどころとなれるような仕事をしていきたいです」(杉村さん)
その熱い気持ち、まさに火の国の男!実際に、私が訪れた8月のとある日でも「今年は地元に帰れない」という熊本県人が大勢訪れていました。しかし、彼らはここで故郷の味を楽しみ、故郷の言葉で、故郷のあの場所は最近どう変わった、というような会話を楽しんでいました。
この瞬間、私は、まさにアンテナショップとはこういうことなのだと腑に落ちました。昔のイメージとは違うのです。単なるおみやげ物屋さんや、各都道府県が地域の産物を赤字垂れ流しながら紹介する場などではないのです。
ガチガチの真剣勝負の場であり、プライドとプライドがぶつかりあう場であり、でも上京者やその子孫の心のよりどころでもあるという不思議な空間なのです。
私はなんとなく「今年は九州に帰れんけん、アンテナショップで故郷の味でも探すかね」くらいの軽い気持ちで行っていましたが、求める故郷の味の向こう側にある、心の拠り所を、それとは知らずに探しに行っていたのかもしれません。
今回は九州出身の私がとくにおすすめしたい九州のアンテナショップ3つをご紹介しました。九州には実際に足を運べないこんな時期でも、九州の熱い魂はここ東京でも感じることができます。ぜひ、近場の九州を楽しんでみてくださいね。
- image by:徳永秀一郎
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