コロナ禍のアメリカでNo.1の注目度を集める「ゴースト・キッチンズ」とは
顧客と店の双方にメリットも
宅配サービスを選択すると、顧客から見たゴースト・キッチンズはまさに実体がありません。
日本でも展開しているウーバー・イーツの他に、アメリカでは「ドア・ダッシュ(Door Dash)」や「グラブ・ハブ(Grub Hub)」などの大手オンライン宅配サービスがあります。
顧客はそのどれでもよいので、好みのメニューを販売している店の名前を選択して注文するだけ。なので、その店が物理的に店舗を構えたレストランか、それともゴースト・キッチンズに入居している「バーチャル」なレストランかを意識する必要すらありません。
ただし、宅配サービスでは当然のことながら宅配料金がかかりますし、アメリカではチップ代も期待されます。これらの料金は宅配サービス会社と顧客との間での直取引になり、レストラン側は関与しません。
距離にもよりますが、宅配料金は大体1回につき3〜5ドル(約300~500円)ぐらい、ドライバーへのチップは普通1~3ドル(約100~300円)程度が相場です。
パーティーなどの単発イベントに利用するならさほど問題にならない金額ですが、毎日のように利用するとなると、けっして安くはないと考える人がいるのは不思議ではない金額ですね。少なくとも私にとってはそうです。
宅配料金やチップ代を避けたい顧客は持ち帰りを選択することになるでしょう。その場合は通常のレストランと同じように施設の場所を意識する必要がありますが、それでもゴースト・キッチンズならではの利便性があります。
前述しましたように、ゴースト・キッチンズでは通常1カ所の施設内に複数のレストランが入居していますので、顧客はそのなかから好みのメニューを選ぶことができます。あちこち店の場所を探す必要も、移動する必要もありません。
いわばフードコートのオンライン版ともいえるでしょう。施設側も顧客がスムーズに商品をピックアップができるように店舗の設計に工夫をこらしています。顧客は駐車場の車内で待ち、そこまで店員が注文を運ぶドライブ・スルー形式もよく見られます。
レストラン側からすると、ゴースト・キッチンズには低予算&低リスクで開店営業できるという大きなメリットがあります。
キッチンの広さや器具の充実度などによってさまざまですが、キッチンのレンタル代は月額数10万円程度のところが多いようです。
立地条件によって経営状況が左右されることも、店舗維持にかかるコストに頭を悩ませることもなく、食べ物を提供するサービスそのものに専念することができるのです。
もしゴースト・キッチンズを利用した経営が苦しくなったらレンタルを停止するだけで済みますので、自分で店舗を所有することに比べると格段に経営リスクが低くなります。
ゴースト・キッチンズが提案する新たな食文化
そうしたメリットを生かして、新たに開業する料理人や、既存レストランが実験的または前衛的なメニューを試す場として利用するケースが多いこともゴースト・キッチンズの特徴のひとつです。
例えば、私の近所にあるゴースト・キッチンズの施設、「Smart Kitchens Inc.」に入居しているレストランのひとつに「カップに入ったスシ」の店があります。
スシを、というよりスシの材料をタピオカのようなカップに入れて混ぜ、レイヤーを作ったものです。
この施設には他にも「タンドリーチキン(インド料理)を包んだブリトー(メキシコ料理)」であるとか、「ザリガニを炒めた焼うどん」などといった、あまり他では見られないような種類のメニューを提供するレストランが入居しています。
もちろん、ごくごく普通の料理もたくさんあります。
この施設は地方空港からすぐ近くのオフィス・倉庫街にあります。顧客が持ち帰りのために出入りする正面はごく小さなスペースです。
とてもレストランがあるような立地条件でも雰囲気でもないのですが、この裏に現在8軒のレストランが営業をしているのです。
- 参考:USA Today「Restaurants adapt to the new normal: 20 ways dining out may change in 2021 and beyond」
- image by:角谷剛
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