既婚・未婚、収入…そして性的指向を問わないアメリカの「養子縁組制度」
グラミー賞を9回受賞している有名歌手シェリル・クロウに『Stay at Home Mother』という曲があります。「専業主婦の母」という意味のタイトルとは裏腹に、仕事が忙し過ぎて幼い娘との時間を取れない母親の切ない心情を歌っています。
実生活のクロウはシングルマザーで2人の息子を育てています。かつてミュージシャンのエリック・クラプトン、俳優のオーウェン・ウィルソン、そして元自転車ロードレース選手のランス・アームストロングなどと恋人関係が伝えられたクロウですが、実は現在に至るまで結婚歴はありません。
そして2人の子どもとも血のつながりはなく、養子縁組を経て彼ら2人の母親になりました。クロウは現在59歳。長男を迎えたときは45歳、次男を迎えたときは48歳でした。
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アメリカでは養父母の4分の1以上が独身

クロウのように、養子縁組した子どもを育てている独身の男女はアメリカでは珍しい存在ではありません。
政府機関のWebサイト「Child Welfare Information Gateway(子どもの福祉に関する情報ゲートウェイ)」によると、2017年に公的なフォスター・ケア制度(里親制度)から結ばれた養子縁組のうち、養父母の28%は独身だったということです。
その内訳は約1万5,000人が独身女性、約2,000人が独身男性。女性の方がかなり多いようです。上のWebサイトでは養父母になるための条件について以下のように記しています。
「ほとんどの人は養子を迎える資格があります。既婚、未婚、年齢、収入、あるいは性的指向は関係ありません。身体的な障害があることも養父母になる資格を妨げるものではありません」
伝統的な家族像にこだわる日本との違い

こうしたアメリカの養子縁組制度は日本とは大きく異なります。厚生労働省のWebサイトには「養親となるには配偶者のいる方(夫婦)でなければならず、夫婦共同で縁組をすることになります。また、養親となる方は25歳以上でなければなりません」とあります。
つまり、日本の現行制度ではシェリル・クロウは未婚であるという理由で母親にはなれなかったということになります。
同Webサイトによると、この制度の目的は子どもの福祉の増進を図るためということですが、父親と母親がいる家庭の方が子どもの幸福に繋がるという考えは果たしていまの時代にあっているでしょうか。
結婚しないことを選択した人、離婚した人、配偶者に先立たれた人、世の中にはさまざまな理由で独身の人がいます。そのなかには子どもを育てることを強く願う人もきっと数多くいるに違いありません。
そして、日本のこの制度はLGBTQと呼ばれる性的少数者からも人の親になる権利を奪っています。同性同士の婚姻が法的に認められていない現状では、彼ら彼女らは日本では養父母になれないからです。
ゲイの養父に育てられた元カンボジア孤児がオリンピック代表選手に

マドンナ、アンジェリーナ・ジョリー、メグ・ライアンらは海外から養子を迎えました。そうした有名人だけではありません。東京オリンピックの男子10m高飛込競技にアメリカ代表として出場した、ジョーダン・ウィンドル選手は元カンボジア孤児です。養父のジェリー・ウィンドルさんは白人で、東南アジア人のジョーダンさんとは親子で人種も異なっています。
ジェリーさんは長い間父親になりたいと願っていましたが、ゲイで独身であることで、それは叶わないものだと諦めていたそうです。
しかし、一念発起してカンボジアへ渡ったジェリーさんは、孤児院で栄養失調と感染症から生命さえも危ぶまれていた1歳の男の子をアメリカに連れて帰りました。男手ひとつで育てられたジョーダン選手は、父親の誕生日に次のようなメッセージを自身のインスタグラムに投稿しています。
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「パパ、誕生日おめでとう。家で一緒にいてお祝いできたらと思うよ。だけどパパが僕にしてくれたすべてのことを僕がどれだけ感謝しているかを忘れないでください。よい誕生日を過ごして下さい。もうすぐ会えるね」
この父親への愛情あふれるメッセージを読んで、彼らが家族になれない理由があると誰にいえるでしょうか。家族の形はひとつではないはずです。そしてそれは国が決めるものではないと私は考えます。
- 参考:「Child Welfare Information Gateway」(PDF),「Child Welfare Information Gateway-Who Can Adopt?-」,厚生労働省「特別養子縁組制度について」
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