トロッコ電車の始発駅。絶景と温泉を一度に味わう富山「宇奈月温泉」
泉質に優れた天然温泉と、おもてなしの精神にあふれた上質な宿、さらに土地の食材を存分に活かしたおいしい食事があれば、大抵の温泉旅行は満足できます。とはいえ、何かプラスアルファで観光の目玉を求める欲張りな気持ちも、旅行者にはありますよね。そこで今回はそのプラスアルファが充実した富山県最大の温泉街、「宇奈月温泉(うなづきおんせん)」を紹介していきます。
深山幽谷の秘湯・黒薙温泉の源泉を引湯した大正生まれの温泉地
宇奈月温泉と聞いて、どこにある温泉街なのかすぐに分かる人は恐らく少ないのではないでしょうか。宇奈月温泉は富山県にある県最大の温泉街です。しかし草津や別府、有馬などと比べると全国的な知名度が劣りますから、知らない方が多くても仕方ありませんよね。宇奈月温泉とは県東部の中部山岳国立公園の玄関口、黒部峡谷を作る黒部川沿いの河岸段丘に大正時代に作られた温泉街です。
自然発生的に源泉の周りにできた温泉街ではなく、黒部川上流の深山幽谷にある黒薙温泉から、毎分2,000リットルという湧出量の弱アルカリ性単純泉を約7kmにわたって引き湯管で流し、下流で配分して作った温泉街になります。
「開湯90周年 宇奈月温泉の歴史を辿る」(黒部市教育委員会)を読むと、源泉の黒薙温泉は江戸時代の正保2年には既に発見されているそう。ただ、絶壁の渓谷にあるという立地的な要因と、同地を支配した加賀藩が明治元年まで開湯を許さなかった政治的要因が重なり、一般の利用はほぼなかったと言います。しかし、大正時代に入ると、黒薙温泉の源泉を引いて下流の宇奈月台(河岸段丘)に温泉街を作る構想が出てきます。一方で黒部川沿いの上流に発電所を建設する目的で、大正12年に資材運搬用の鉄道敷設がスタートしました。その始発駅が宇奈月に設けられます。
温泉街はアジア・太平洋戦争、昭和21年の宇奈月大火など、苦しい時期を経験しながらも成長し、近年では年間30万人以上が宿泊する富山最大の温泉街になっています。鉄道の方も昭和28年に地方鉄道として認可を受け、観光客を輸送するサービスを始め、現在は外国人観光客を含めた35万人ほどの乗客が楽しむ一大観光プログラムに発展しています。その両者が組み合わさった温泉街が、宇奈月温泉なのです。
- 宇奈月温泉
- 富山県黒部市宇奈月温泉
- 0765-62-1021 (宇奈月温泉旅館協同組合)
- 北陸新幹線「黒部宇奈月温泉」駅から富山地方鉄道に乗り換え「宇奈月温泉」駅へ
- http://www.unazuki-onsen.com/
日本で最も深い黒部峡谷を行くトロッコ電車の始発駅に温泉街がある
人気のトロッコ電車始発駅がある宇奈月を拠点にすれば、国立公園の峡谷探訪も温泉も楽しめます。飲食店や温泉宿が密集する中心エリアから黒部峡谷鉄道の宇奈月駅は徒歩ですぐ。極端な話、宿から手ぶらで駅に向かい、国立公園内へもアクセスができるのです。
宇奈月駅から最大で片道1時間20分の沿線上には、日本で最も深いV字峡谷の絶景が連続していて、途中駅(または終点)で下車すれば、秘湯の黒薙温泉、鐘釣河原露天風呂、万年雪、猿飛峡なども楽しめます。
始発駅の標高は224mで、終点の欅平は599m。その分だけ気温が低くなる上に、トロッコ電車は天井と骨組みしかないワイルドな設計の客車が基本になりますので、山岳地帯の冷涼な風をまともに浴びながらの電車移動になります。春と秋はもちろん、夏場でも体が冷えて、帰るころには顔を青白くしている乗客も少なくありません。
上着はもちろん忘れたくないですが、宇奈月に宿泊していれば電車で戻ってきた直後に宿へ向かい、冷え切った体を透明度日本一とも言われる天然温泉で芯から温められます。さらに風呂上りは富山湾の海の幸、飛騨山脈の山の幸を使った料理、米どころ富山の地酒を帰路の運転も気にせず思う存分、宿泊先で楽しめるのです。単に泉質が良く、宿がいいだけではなくて、宿を拠点に北陸を代表する観光電車にも乗車できてしまう魅力が、宇奈月にはあるのですね。
- 黒部峡谷トロッコ電車
- 0765-62-1011(黒部峡谷鉄道・営業センター)
- 北陸新幹線「黒部宇奈月温泉」駅から富山地方鉄道に乗り換え「宇奈月温泉」駅。下車後、徒歩で黒部峡谷鉄道「宇奈月」駅へ。
- http://www.kurotetu.co.jp/