【国宝・大徳寺方丈】息を呑む美しさ〜文化財建造物の修理現場〜

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2022/10/23

全国でも珍しい「公務員大工」の存在

解体した材料をどこに戻せばいいのかを示す「番付札」

今回の取材で驚いたことのひとつが、文化財保護課には公務員の宮大工の技術を持つ職員が存在するという事実です。正確には、堂宮大工が11名と建具師が2名。みなさん大工の実技試験を含む公務員試験に合格し、高い技術と伝統工法の知識を持った優秀な職人たちです。

全国津々浦々、府県が独自に大工を抱えるというのは非常に珍しいこと。というのも、文化財そのものが少ない府県だと、仕事のない時期が発生してしまうためです。京都のように、向こう10年の修理計画が決まっているほど文化財が豊富でなければ、成り立たないシステムというわけですね。

棟梁の望月さんは、文化財保護課の大工になって現在13年目。社寺建築がやりたいという思いで、故郷の静岡を離れて京都へやってきたのだそう。

「民間の工務店に入って、社寺建築に携わってきました。主に新築の現場で修業していたんですが、新築で建てた社寺は、多くが100年~200年で取り壊されてしまうんです。修理にお金がかかることもあって。それよりも、ずっと残るものを造りたい、歴史あるものに携わりたいと思うようになって、文化財保護課へきました」

カンナがけを見せてくれた望月さん。この日は作業がなく、急遽お願いしたにもかかわらず、さすがの職人技でした。

布よりも紙よりも遥かに薄いカンナ屑が、光を透かしながら木の繊維を浮かび上がらせる様子は本当にキレイ。ちなみに、木は湿度がある日の方が柔らかくて削りやすいのだそう。

「雨の日はみんな、カンナが上手くなったように勘違いします(笑)」

カンナは刃の研ぎ方や台の造り方、それぞれのバランスなど調整に多くの工夫が必要で、「注文の多い道具」と呼ばれているとか。望月さんはカンナの台やノミの柄の部分を、より手に馴染むよう自分で造っているそう。すごい!

扉や欄間などの修理を専門に行うのが建具師。0.1mmの狂いも許されない緻密な技術が求められます。修理を終えてピシッと線の揃った扉が美しく並んだ空間は、きっと圧巻の景色でしょうね。


古い板の傷んだ部分だけをくりぬき、新しい材で埋めていきます。板ごと取り換える方がよほど早そうですが、残せるものは可能な限り残すのが文化財修理のルール。

大工さんの忘れ物?400年前のノミを発掘!

解体作業の最中には思わぬものが発見されることもあるようで、今回の現場から出てきたのは、なんと400年前のノミ! 屋根を支える垂木と板の間に挟まっていたもので、刃の部分が赤く錆びついているものの、しっかりと原型をとどめています。

400年前、つまり創建当時のものだと判断された理由は3つ。

  • ①発見された場所の部材は過去に解体された形跡がなかった
  • ②中世ごろに使用されていた両刃仕様になっている
  • ③発見場所のすぐ近くに、このノミで削ったと思われる刃の痕跡がある

ただし、これだけのことがわかっても、大工さんが置き忘れたのか、それとも落としたのか?それは謎のままだそうです。ちなみに京都の修理工事でノミが発見された事例は4件だけなのですが、竹下さんはそのうち2件に関わっているそう。なんとも引きがお強い!

この画像はある部材の墨書を赤外線カメラで写したものですが、なんだと思いますか?実はこちら、天井板に書かれた大工さんの落書き。書かれている内容を解読すると、

  • 天井打手元
  • 庄兵衛 久三郎
  • 仁兵衛 安五郎
  • 作兵衛 甚七
  • たみ
  • 江州三井寺住人

もともと滋賀の三井寺に住んでいた大工さんが、現場に住み込みで仕事をされていたんでしょうか。面白いことに、その横に書かれているのは有名な和歌。

たこ乃浦打出見れは
白たへのふしのたかねに
ゆきはふりつつ

天井裏など外からは見えない部分に、大工さんが自分の名前を書き残すことは決して珍しくなかったそうです。好きな和歌を書き残すのも流行っていたのだとか。なんというか、急に建物に体温が宿ったような気持ちになりますね。文化財という雲の上のものが、身近なものになったような。

「建物に含まれるすべての情報を未来に残したい」

「文化財を後世に残していくことの意味ってなんですか?」最後にこんな質問をしたら、竹下さんはこう答えてくれました。

「若いころ、海外旅行が好きで年に4回ぐらい行っていたんです。バックパックでインドのタージ・マハールや、インドネシアのボロブドゥール遺跡を旅したり。それで思ったのが、やはりその土地の文化を知る上で、建物というのはとてもわかりやすいということ。こんなものを造った人たちの国なんだって感じられるひとつの指標が建物だと思います。

日本も同じことで、古い建物を修理して残すことは、日本ってこんな国なんだよということを後世に伝えるためのツールでもある。そこには僕から見たその建物の魅力だったり、僕にはわからなかった別の魅力も、ものを残せばそこに情報はいっぱい詰まってるんですよ。

そういうものを含めて建物を残していくことに意義があるのかなと思って仕事をしています。まあそれは表向きで、一番はやってて楽しいということですけどね(笑)」

次世代へ繋ぐための文化財修復の現場では、専門の職人たちが日々、さまざまな想いを込めて丁寧に作業を行っています。このような修理が時代ごとに行われていること、修理現場でどのようなことが行われているのかを知ると、文化財建造物を見る目も少し違ってくると思います。文化の秋、そして芸術の秋――自分たちの国の歴史や文化に、思いを馳せてみませんか?


★国宝・大徳寺 方丈の修理現場を見に行こう!

今回、取材した大徳寺方丈(国宝)の修理現場は、11月の以下の日程で、無料で公開されます。普段の寺院拝観とは全く異なる、未来へ受け継いでいくための文化財修理現場の様子を、ぜひ現場で体感してください!

日時:令和4年11月5日(土)・6日(日)10:00~16:00(両日とも16:30公開終了予定)
会場:大徳寺 方丈(国宝)[京都市北区]

詳しくは、こちらのURLをクリックください。

■■取材協力■■

京都府 文化財保護課建造物係
TEL:075-414-5900

  • source:KYOTO SIDE
  • ※掲載時の情報です。内容は変更になる可能性があります。
  • ※本記事は新型コロナウイルス感染拡大時のお出かけを推奨するものではありません。新型コロナウイルスの国内・各都道府県情報および各施設の公式情報を必ずご確認ください。
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