TikTokはもう終わったのか?米国で「禁止法案」可決でもどこかシラケる若者たち

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2024/05/24

2024年4月24日、ジョー・バイデン米国大統領は動画共有サービスTikTokを規制する法案に承認の署名を行いました。下院(360-58)に続いて、上院(79-18)でも圧倒的多数で法案が通過した翌日のことです。親会社である中国の企業ByteDance にTikTokの株式を9か月以内に米国企業に売却するか、あるいは米国内でのサービス提供を禁ずるというものです。

Tiktokにはかねてからユーザーのデータが中国政府へ提供されているというプライバシーに関する懸念が指摘されてきました。さらには、そのデータが米国に不利なプロパガンダに利用されているとして、国家安全保障上の脅威とみなす論調も根強くあります。

成立した法案は「外国敵対勢力が管理するアプリから米国人を保護する」ことが目的とされています。しかし、実際に米国内でTikTokが使えなくなるのかについては、その可能性は低いとする見方が大勢を占めます。

過去の規制はことごとく失敗してきた

image by:beeboys/Shutterstock.com

米国内でTikTokの利用を規制しようとする動きは今回が初めてではありません。そして、そのほとんどは成功していません

2020年に当時のトランプ大統領がTikTokの米国でのダウンロードを禁止する大統領令を発令しましたが、連邦法廷は審議が不十分であるという理由でこの命令を差し止めました。

モンタナ州は2024年1月から州内でTikTokの利用を禁止する法案を成立させましたが、2023年11月に連邦法廷はこの法案が違憲であるという判断を下し、施行は中止されました。

TikTok規制の数少ない成功例としては、テキサス州が州政府職員に州から提供された機器上でのTikTok利用を禁止したくらいです。これについては法廷でも合法の範囲であると判断されました。

今回もByteDanceが法廷闘争に持ち込むことはほぼ確実です。その拠りどころは、表現の自由、報道の自由、平和的に集会する権利、 請願権を妨げる法律を制定することを禁止する米国憲法修正第1条です。

特定のアプリ使用を法律で禁ずることはこの憲法の精神に抵触するという考えは不自然には聞こえません。米国メディアの多くも法案がそのままの形で実効性を持つことはないだろうと予想しています。


イマイチ盛り上がらないユーザーの反発

image by:Kaspars Grinvalds/Shutterstock.com

ByteDanceは米国内のTikTokユーザーは1億7000万人を越えると主張しています。世界で最も多い国内ユーザー数だということです。その大多数を10代から20代までの若年層が占めることが大きな特徴のひとつです。

しかし、若者たちがTikTok規制に反対するという動きはあまり聞こえてきません。まったくのゼロではないのでしょうが、大規模なデモ行進が行われることも選挙の重大な争点になっているということもなさそうです。

私自身はTikTokとは無縁の中高年世代ですが、高校の部活動指導者という仕事柄、たくさんの10代少年少女たちと日常的に接しています。大学生の息子もいます。この記事を書くにあたって、彼らにTikTok規制についてどう思うかを訊ねてみましたが、どうも関心は薄いようです。

「(規制のことは)知らなかった」
「TikTokのアカウントは持っているけど、あまり使っていない」
「昔は動画作りにハマったけど、今は見るだけ」

そんな冷めた反応が大半でした。TikTokが使えなくなるかどうかを心配している様子はありません。

もちろん、高校生や大学生が正直に心の中を大人や親に打ち明けるわけはない、とは思いますので、私が受けた感触が全面的に的を射ているとは断言できません。それでもやはり、彼らの間でTikTok離れがかなり進んでいるのではないでしょうか。

もともとTikTokは落ち目だったのか

image by:Ringo Chiu/Shutterstock.com

わざわざ法律でTikTokを禁止しなくても、自然に淘汰されるか、あるいは衰退していくのではないか。そんな風に考えることもできるでしょう。

TikTokが米国内で急成長した時期は新型コロナウイルスのパンデミックとちょうど重なっていたことは考えられる理由のひとつです。多くの人々が家にいる時間が増え、オンラインでのエンターテインメントやコミュニケーションが重要になりました。パンデミックの終焉とともにTikTokのニーズも下火になったのかもしれません。

短時間の動画を自由に編集して投稿するというTikTokの機能自体も、今ではさほどユニークには映らなくなりました。似たようなサービスは他の競合する老舗SNSにも続々とできているからです。

私などにはインスタグラムのリール機能とTikTokの違いはよく分かりませんし、Youtube Shortsについても同じことが言えます。テクノロジーは後発有利の原則はここでも生きてくるのかもしれません。

よく利用されるSNSは世代によって異なります。フェイスブックやX(ツイッター)は中高年世代、TikTokやスナップチャットはティーンエージャーから20代前半まで、というのが大体のイメージでしょう。

辛うじて、両者がクロスするのはインスタグラムやYoutubeだと思われるのですが、2年くらい前までは私のインスタグラムのフィードに生徒たちがTikTokを使って作成した動画がよく現れていたのです。最近はあまり見なくなりました。

筆者が指導する野球部の生徒たちが2年前にインスタグラムでシェアしたTikTok動画: 

 
 
 
 
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矛盾だらけの政治的背景

image by:salarko/Shutterstock.com

TikTok規制の背景には米国と中国の対立があることは明確なのですが、皮肉なことに双方の政府はこの件については互いを批判できません。

なぜなら中国政府は長い間グーグル、フェイスブック、ツイッターといったサイトへのアクセスを禁止してきました。米国政府はそのことを中国批判の材料にしてきましたし、ナイジェリアが2021年にツイッターを禁止したときもそれが民主主義に反する行為であると非難する声明を発表しています。

今回の規制法案に署名したバイデン大統領ですが、自身の選挙運動にはTikTokを利用しています。法案通り、9か月後にTikTokが禁止されたとしても、11月の大統領選まではTikTok使用を継続できます。

前述したように、トランプ元大統領は現職時代にTikTok禁止を試みて失敗しましたが、現在は規制反対の立場からバイデン氏を非難しています。TikTokを認めるように方針を変えたわけではなく、メタやグーグルなどの利益に繋がることを嫌っているようです。

まさにダブルスタンダードのオンパレード。こうした胡散臭い「大人の事情」が若者たちをシラケさせているとしても無理もないのでは。個人的にはそんな風に感じています。

日本政府が米国政府に同調するようなことがあれば(考えられないことではありません)、日本の若者たちはどのような反応を示すでしょうか。

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角谷剛(かくたに・ごう) アメリカ・カリフォルニア在住。IT関連の会社員生活を25年送った後、趣味のスポーツがこうじてコーチ業に転身。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州アーバイン市TVT高校でクロスカントリー部監督を務める。また、カリフォルニア州コンコルディア大学にて、コーチング及びスポーツ経営学の修士を取得している。著書に『大谷翔平を語らないで語る2018年のメジャーリーグ Kindle版』、『大人の部活―クロスフィットにはまる日々』(デザインエッグ社)がある。

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