「FBIだ!!」でドアを蹴り破る…なぜアメリカの玄関ドアは内開きが多いのか

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2024/08/30

私はアメリカに長く住んでいます。日常的に日本とアメリカの違いを意識することが多いのですが、なかには気に留めずに見逃していることもあります。盲点と言ってよいかと思います。玄関ドアが開く方向についてもそのひとつでした。

アメリカの住宅では玄関ドアはふつう内開きです。ドアは外側から部屋の内部に向かって開くわけです。豪邸から安アパートに到るまで、ほぼ例外なく、と言ってよいかと思います。少なくとも私は外開きの玄関を持つ家を訪問した記憶はありません。コンコンとドアをノックすると、家の中にいる人はドアノブを「引いて」、迎え入れてくれます。

「よく映画とかで、FBI捜査官が体当たりで玄関を押し開けたりしますよね」とは担当編集者のコメントです。確かにそうでした。

試しに、今話題のMeta AIで”FBI raid”をキーワードにすると、下のような画像がたくさん生成されました。壊されたドアは部屋の中を向いています。捜査官たちはドアを蹴破った勢いでそのまま屋内に突入します。

image by:角谷剛(Meta AI)

これが日本の刑事ドラマでは反対になります。コワモテの刑事さんが「こるああ、開けんかい!」と怒鳴ってドアをドンドン叩くときも、穏やかで紳士的な刑事さんが「○○さん、恐れ入ります」と礼儀正しくノックするときも、中にいる人はドアノブを「押して」、外側に開くわけです。

前置きが長くなりましたが、玄関ドアが開く方向が日本とアメリカではなぜ反対なのだろう?が今回のテーマです。

生活習慣の違い

image by:GBJSTOCK/Shutterstock.com

日本では玄関で靴を脱ぐ。アメリカでは靴を履いたまま家に入る。この違いが最大の要因ではないでしょうか。

日本の場合、玄関前にはよく靴箱がありますし、そうでなくてもドアの内側には何足かの靴が置いてあることが普通です。もしドアが内側に開くと、そのためのスペースを取ることができなくなります。

アメリカの住宅は玄関のドアを開けると、いきなり部屋になっていることが多く、屋外との段差も普通ありません。だからドアが内側に開いても問題は生じません。


最近はアメリカ人も屋内で裸足になることを好む人が増えている気もしますが、そういう人でも玄関先ではなく、自分の寝室で靴を着脱するようです。それだと、靴底についた埃が家の中に入ってしまうよね、と思われるかもしれませんが、実にその通りです。なぜ日本人のように玄関先で靴を脱がないの?とはどうか私に訊かないでください。

防犯上の理由

image by:rawf8/Shutterstock.com

内開きのドアは、蝶番が室内側にあるため、外部から蝶番を外して侵入することが難しい。アメリカの住宅で内開きのドアが好まれるのはそのせいだ。そんな説があります。グーグルやメタで理由を尋ねると、そうした答えが返ってきます。

個人的には、そうかなあと首を傾げてしまいます。こっちの泥棒なら蝶番を外すような細かい手作業をわざわざするより、手っ取り早く窓ガラスを割って侵入するのではないかと思うからです。

ただ、半開きにしてしまったドアの外に好ましくない人物が立っているようなときに、中からドアを閉めるには、引くより押す方が楽だし、自分の手を外側に出さなくても済みますね。押し売りとかしつこい勧誘とかを追っ払うには、玄関ドアは内開きの方が適しているかもしれません。

自然災害への対策

image by:Dolores M. Harvey/Shutterstock.com

屋外が大雪で埋もれたとき、雪の圧力でドアを外側に開けることは難しくなります。だから住宅の玄関は内開きなのだという説もあります。

確かにそうかもしれません。私は以前ニュージャージー州に住んでいたのですが、そんな風に玄関前まで雪に埋もれたことが何回かありました。

しかし、雪がまったく降らない南カリフォルニアでもフロリダでもハワイでも玄関ドアは内開きですので、この説も今ひとつ説得力に欠けるような気がします。

逆に言えば、日本でも北海道や東北などの雪が多い地域では内開きのドアが普及しそうなものですが、そんな話は聞いたことがありません。


緊急時には外開きドアが適している

image by:samritk/Shutterstock.com

ところで、アメリカでもオフィスや店舗など公共の施設では大抵のドアは外開きです。とくに火災時の緊急出口などは外開きであることが法律で定められているそうです。

多くの人がドアに殺到して、すみやかに屋外へと脱出するには、ドアを体で押す方が確かに速いですね。従って、緊急出口の外側に物を置くことはご法度です。この辺の事情は日本も同じです。

しかし、建物の外側から消防隊員がドアを開けて(あるいは蹴破って)内部に入るには、内開きの方がやりやすいような気もします。冒頭のFBI捜査官が家に押し入るケースとは違い、人命救出が目的ではあっても、物理的な動作だけを見るとそう思えます。

考えれば考えるほど、分からなくなってきました。日本の住宅で玄関ドアが外開きなのは靴の着脱という確固たる理由がありますが、アメリカのそれが内開きでなければいけない理由はないのではないでしょうか。

私の自宅も玄関、バスルーム、寝室とすべてのドアが内開きになっています。それらのどれかが外開きになったとしても、とくに困ることはないような気がします。例外は車を入れておくガレージのドアですね。これはアメリカでも大抵は外に開きます。

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角谷剛(かくたに・ごう) アメリカ・カリフォルニア在住。IT関連の会社員生活を25年送った後、趣味のスポーツがこうじてコーチ業に転身。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州アーバイン市TVT高校でクロスカントリー部監督を務める。また、カリフォルニア州コンコルディア大学にて、コーチング及びスポーツ経営学の修士を取得している。著書に『大谷翔平を語らないで語る2018年のメジャーリーグ Kindle版』、『大人の部活―クロスフィットにはまる日々』(デザインエッグ社)がある。

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