日常も特別な日も楽しめる「越中 八尾」は、町歩きこそ美しい
3日間で人口の約100倍の観光客が押し寄せる祭の舞台
もちろん八尾を語る上で、越中八尾 おわら風の盆は外せません。祭の開催期間である9月1日~3日の3日間で、国内外から合計26万人ほどの観光客が押し寄せたという情報(2017年)もあります。平成30年1月末の時点で、八尾地域(富山市内)の人口はわずか2,207人。開催期間中の3日間で人口の約100倍の人が押し寄せる人気の祭の舞台が、八尾なのですね。
特に陰影の深い北陸の夜に見る踊りの美しさは幻想的で、三味線、胡弓の音色がその色つやを一層引き立てます。ただし、上述した通り、八尾の町は丘陵地帯を背にした河岸段丘に発展した窮屈な門前町のため、その限られた町内スペースに1日8万人近い観光客が押し寄せると、休日の東京・渋谷の方がまだ歩きやすいというくらい混雑します。
観光客からは「踊りが見えない」などの苦情も寄せられていると聞きますし、残念ながら筆者の感覚で言ってもその通りで、落ち着いて踊りを眺められるような状況ではありません。しかし、一方で踊りはそもそも、観光客に見せるための見せ物ではなかったという前提があります。
<何のために『おわら』を踊るのかという目的はない。踊ること自体が楽しいものでなくてはならない>(原文ママ『人間発展のまちづくり』(清文社)より引用)
というおわら保存会の言葉も見られます。もちろん八尾に11町ある中で言えば、福島という町がJR高山本線の越中八尾駅のホームで「見送りおわら」を踊るなど、観光客へのおもてなしの気持ちも忘れていません。しかし、根本的には文化を守り、後世に伝えていく中で、自分たちが楽しむというスタンスを地元の方は大事にしていると聞きます。
観光客に完全におもねっていない、グローバル化にもなじまない、風土に根差した生粋の庶民芸能の香りが、逆に遠方から来た観光客には新鮮に映るという側面もあるはずです。普段のどこか湿り気のある陰影に満ちた町並み散策もいいですし、晴れの日である越中八尾 おわら風の盆の時期の八尾もやはりいいです。日常の八尾も特別な日の八尾もどちらも訪れて、その魅力を満喫してみてくださいね。
- 参考
- 越中八尾 おわら風の盆セレクション(北日本新聞社)
- 人間発展のまちづくり(清文社)
- アートと町屋のハーモニー(坂のまちアートinやつお実行委員会)
- 角川日本地名大辞典(角川書店)
- 1:25,000 土地条件図 富山 国土地理院
- 歴史と文化が薫るまちづくり事業計画書 富山市