海岸から愛を再確認できる場所。福井県・小浜湾の天然記念物「蒼島」
嫉妬深い弁財天が自分より美しい村の娘を早死にさせたという言い伝えも
蒼島は小浜市の加斗（かど）という住所にある離島になります。『福井県大百科事典』（福井新聞）によれば、海岸線から島までの距離は約2kmで、面積は約8,250平方メートルとされています。プロ選手向けのサッカー場がだいたい7,500平方メートルですから、サッカー場よりも一回り大きい広さの無人島です。
ただ、この数字も情報源によって異なっていてます。『角川日本地名大辞典 18福井県』（角川書店）によると、海岸からの距離は約1km、面積も先ほどとは違う情報が出ています。
話を聞く機会のあった地元の人は、1周が400mくらいだといっていました。標高については角川日本地名大辞典によると44m。44mといえば奈良の大仏を囲んでいる大仏殿と同じくらいです。そう考えると、なかなかの存在感をもって、渚100選にも入る小浜湾に景観の楽しさをもたらしているのですね。
海岸線から見ても分かる通り、島では原生林が枝葉を上空に目いっぱい伸ばしています。島自体に標高以上の厚みとボリュームを感じる理由はその樹木で、植生は、
＜典型的な暖地性常緑広葉樹＞（福井県大百科事典より引用）
とあり、角川日本地名大辞典によれば、40科77種の植物が自生しているのだとか。具体的にはタブノキなどですね。
うっそうとした森の台地には、弁財天を祭る「蒼島明神」が建立されていて、この弁財天が嫉妬深い女性の神様のため、地元の方によれば加斗で弁財天よりもかわいい女の子が生まれると早死にするとまで、一時は信じられていたのだとか。
また、島に渡ってきた男女のカップルを見つけると、弁財天が2人を破局させると信じられていたといいます。
蒼島を眺めるときは鳥居を探してみて
この島は望遠レンズで眺めると分かる通り、海岸線のほとんどが岸壁になっています。波の作用によって地域の最も古い岩石（基盤岩）が露出しているとかで、島の東側には洞穴もあると、角川日本地名大辞典に書かれています。
知人はシーカヤックで上陸した経験があると語っていましたが、残念ながらふらりと訪れた一般の観光客には島に渡る手段がありません。
毎年7月15日には蒼島神社のお祭りがあり、地元の神主と住人たちが島に渡るそう。ただこの行事も台風の影響で蒼島神社の参詣道が破壊されたため、ここ数年は中止になっていると地元紙も報じていました。
その意味で、観光客にとっての蒼島は、海岸線から眺める景観のひとつでしかありません。それでも「白波にひとり騒がぬ蒼島を夜はいさりの火影にぞ見る」と、江戸時代の国学者で歌人の伴信友も歌っているように、小浜湾で独り騒がずにじっとしている島の姿には、どこか心引かれる美しさがあります。
筆者はまだ見ていませんが、夜は漁師が沿岸でいさり火をたくため、その明かりで夜陰に島影が浮かぶとも歌われています。すごくロマンティックですよね。
できれば島を眺める際には、望遠レンズや双眼鏡を持ち込んでください。海岸からでも、蒼島神社の鳥居が見えます。うっそうとした原生林を背後に鳥居が建っている姿は、何か神秘的な存在を感じさせる厳かな雰囲気がたっぷり。
その鳥居を眺めながらカップルで伝承について語り合い、「俺たち（私たち）は大丈夫だよね」などと言葉にしてみると、旅先でふらっと立ち寄った海岸で、より固い愛のきずなを再確認できるかもしれませんよ。
- image by:Masayoshi Sakamoto（坂本正敬）
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