『鬼滅の刃』が大人気だけど、そもそも日本の鬼っていつからいるの?
なぜ鬼には角が生え、トラの皮のパンツをはいているのか?
とはいえ、どうして頭に角が生えているのか、体が赤いのか、青いのか、トラの皮のパンツをはいているのか、謎はたくさん残されています。
それらの理由については、先ほどの小松和彦編『怪奇の民俗学4 鬼』(河出書房新社)に収載された他の著者の論文が詳しいです。
馬場あき子著『鬼の誕生』によると、鬼の見た目には俗説と定説があるらしく、俗説では陰陽道が関係しているそう。
陰陽道では東北(丑寅)を、魔神の出入りする場所と考えます。東北(丑寅)の方角には好ましくない何かが暮らしていて、その好ましくない者の姿が、ウシとトラの要素で造形されたと考える俗説があるみたいですね。
鬼の角はウシから、パンツはトラの皮からできあがったと考えられます。
ただ、以上はあくまでも俗説です。定説としては、紀元前200年ごろに書かれた中国の書物『山海経(せんがいきょう)』のなかに、獣の皮を身にまとう山の神がたくさん出てくるそうで、その山の神の姿が日本の鬼に影響を与えたのではないかと考えられているそうです。
『山海経』に出てくる山の神は、竜やヘビ、トリ、ウシ、ウマ、ヒツジ、トラ、ヒョウ、ブタ、またはいずれかの皮を組み合わせ、角を身に付けているといいます。
例えば体が竜で、首から上がトリだったり、体がヘビで、顔が人間だったり、体がウマで顔が人間だったりする姿に、角を生やした感じです。
後に日本の鬼の造形にどれくらいの影響を与えたかまでは分かっていないみたいですが、定説としては『山海経』の神の姿が、日本の鬼のイメージにつながった可能性が高いのですね。
鬼は、昔「もの」とも読んだ
いまでは「鬼」と書いて「おに」と読むことが定着していますが、もともと「おに」とは呼ばれていませんでした。
馬場あき子『著鬼の誕生』によれば、『出雲国風土記』に「昔或(ある)人、此処(ここ)に山田を佃(つく)りて守りき。その時目一つの鬼来たりて佃(たつく)る人の男を食ひき」という文章があって、この一文こそが現在分かっている初出の表現だと言います。
ただ、この時点で「鬼」という字を、「おに」と読んだかどうかは分からないそう。
例えば同時代の『万葉集』に出てくる「丈夫(ますらお)や片恋せむと嘆けども鬼(しこ)の益らをなほ恋ひにけり」という一首では、「鬼」に「しこ」と訓をあてているのだとか。
他の日本文学を見ても、「もの」「かみ」「しこ」「おに」など、さまざまな読みがあります。その読みが、次第に「もの」と「おに」に絞り込まれていった経緯があるみたいです。
「もの」と「おに」については、平安時代の末まで、どっちつかずの状態が続いたそうですが、次第に「おに」が形と実在感を持つ民間伝承の鬼を呼ぶ言葉になり、「もの」は「もののけ」のように、明確な形を伴わない霊のような存在を意味する言葉になります。
ちなみに「鬼」の漢字の母国である中国では「鬼」を「gui」と読みます。この発音に基づいて、「鬼」の音読みは「キ」とされています。『鬼滅の刃』も、この音読みが使われています。
漢字自体の由来は『漢字源』(小学館)によると、大きくて丸い頭をした亡霊が、足元のおぼつかない状態で歩いている様子を描いた象形文字なのだとか。この鬼の文字の訓読みが「おに」に落ち着くまでには、それなりの歴史があったのですね。