実は、日本は特殊だった?9月入学が当たり前の世界の「入学式」

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2021/04/07

日本にもかつて9月入学があった

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ばらばらの状態だった日本の教育制度が整い、学校の入学式が4月に定まっていくまでには、どのような歴史があったのでしょうか。

「日本の学校」といっても、文部科学省がまとめた学校系統図を見ると、さまざまな学校が明治時代から存在していたと分かります。具体的に何をもって「日本の学校」と呼ぶかは判断の分かれるポイントだと思います。

それでも小学校に関していえば、全国の図書館のレファレンス機能を結んだレファレンス共同データサービスを通じて、小学校の4月入学がいつから始まったのか、国立教育政策研究所教育図書館が情報を出しています。

同館によると、1900(明治33)年に改正された「小学校令」で、学年の始めの時期を明記。具体的には、「児童が満6歳になって最初の学年のはじめを就学の時期とする」と書かれているそう。

このタイミングで、小学校の義務制も実現されています。だからこそ、

<4月1日に始まり3月31日に終わる>(「義務就学規定の明確化と授業料の廃止」より引用)

と、一律の入学(始業)が可能になったのかもしれません。

学制という日本で最初の近代学校制度がスタートした時期は、1872(明治5)年。小学校の義務化がスタートする時期は、1900(明治33)年。この約30年の間に、日本の入学シーズンが一本化されていったという流れのようです。

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それまでの入学シーズンは、ばらばらでした。例えば1877(明治10)年に東京大学になる「東京開成学校」と「東京医学校」では、入学時期がそれぞれ9月開始11月開始で異なっていたそう。

「慶応義塾大学」の場合は、1月です。同校で最初の一斉入学式が行われた時期は、記録では1890(明治23)年になるといいます。


文学、理財、法律の3科による大学部が早稲田とともに発足した際に始業式が行われ、59名の新入生が1月27日に、福沢諭吉に挨拶の言葉を受けているそう。

一方で同時に、1910(明治43)年の慶應義塾学報には、4月23日の入学式の記録が残っています。慶應義塾の場合も、1月入学が4月入学に時間とともに統一されているのですね。

学校の入学式が4月に統一された背景には、軍隊の入隊届が4月だった、国の会計年度が4~3月だったという事情もあったとさまざまな場所で指摘されています。

そもそも1892(明治25)年4月に小学校の「4月入学」が、全国の小学校において一律に採用されたと述べる論文も存在するのです。

その意味で、国には教育を全国民に普及させていくなかで、入学時期を統一したいという思いがずっとあった様子。その実現がようやく1900(明治33)年の小学校の義務化で、完成したのかもしれませんね。

ロシアでは最初のベルを鳴らす

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欧米には入学式がなく、日本が特殊だと話しました。ただ、もちろんヨーロッパでも、入学式を大切にする国はあります。例えば、ロシアです。

以前、TRiP EDiTORでは、「世界の不思議な卒業式」を取り上げるなかで、ロシアの例もご紹介しました。ロシアでは、エプロン姿で学校最後の日を迎える女子学生が一般的という話です。

そのなかで最終学年で迎える終業式の日に、授業の開始を告げる最後のベルを学生が聞く、「ラストベル」についてもご紹介しました。

このベル、実はロシアの子どもたちにって、入学式でも重要な役目を果たします。ロシアの新入生は、1年生になる最初の始業式で、初めて授業の開始を伝えるベルを耳にします。

ある意味で学校生活の始まりを告げるベルを、最上級生と新1年生が手を握って、校内を歩きながら鳴らすという入学の儀式があるのですね。

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日は常に9月1日です。ロシアでは「知識の日」と呼ばれます。その9月1日に、新入生と手をつないで構内を歩き、ベルを鳴らした最上級生たちは、翌年5月の終業式の日に、最後のベルを聞いて卒業します。

この入学式と卒業式にベルを鳴らす話は、極東の「ハバロフスク」から内陸地の「イルクーツク」、さらに欧露の「サンクトペテルブルク」に至るまで、各地に点在する筆者の友人たちに共通していました。

あれだけ広大な土地に暮らしながら、全国民が同じ体験を共有しているとは、国家の仕掛けとして優れていると感心してしまいます。

その意味で入学式とはそもそも、ばらばらな人間の心をひとつにするための装置として、古くから機能してきたのかもしれませんね。

今回は、「世界のユニークな入学式」や「日本の入学式の歴史」について紹介しました。

この春、子どもや孫、おい、めいが入学式を迎える人は、当たり前に整備されている日本の教育制度にも、先人の大変な努力があったと思いをはせてみてください。ただでさえ感動的な入学式を、余計に感動して眺められるかもしれませんよ。

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翻訳家・ライター・編集者。成城大学文芸学部芸術学科卒。富山在住。主な訳書『クールジャパン一般常識』、新著(共著)『いちばん美しい季節に行きたい 日本の絶景365日』。北陸のWebメディア『HOKUROKU』創刊編集長。WebsiteTwitter 

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