1番人気は「開拓おかき」。100億円を売る北の絶品菓子屋「北菓楼」
祝い金20万円を支給?~長く働きたくなる驚きの戦略
「自慢の物がある」と、堀が工場を案内してくれた。見ると、機械に名前が貼ってある。「ピュロット」はピュアゼリーを箱詰めにするロボット。「ホバット」というロボットは「ホリ・バームクーヘン・ロボット」から名付けられた。ホリは工場にこんなかわいい名前がついたロボットを次々に導入。今では5台になった。
もちろん作業が効率的に行えるようになったのだが、本当の目的は「60歳でも65歳でも働いてもらえる職場を作りたいと考えているんです」(堀)。きつい作業はロボットに任せ、高齢者には、楽な作業をしてもらう。そうして長く務めてもらうのがロボット導入の目的なのだ。
そんな取り組みで定年後も働き続けてもらい、今や従業員の13%が60歳以上。七尾通(64歳)はボタン一つで動くリフトを使った原料の移動を任されている。「前の会社でリストラを経験しているんです。それでここに入って、知らないうちに社員にしてもらって、今は60歳を過ぎたのでパート勤務をしています。いつも感謝しています。この仕事しかできないのに使ってもらって。こういうことはあまりないと思うんです」と言う七尾。中には80歳の従業員もいる。
とにかく長く働いてもらいたい。そのために堀は、社長の自分に何でも言ってもらえるような風通しのいい環境も作ってきた。堀が一番信頼しているという髙橋政仁は、以前、社長が計画していた創立記念パーティーを中止させたという。
「やはり記念に残るものも大切なんでしょうけど、『全員が何を一番喜ぶか』をお話ししました」(髙橋)
その結果、パーティーの代わりに堀が全社員からパートにまで用意したのが通帳だった。パーティーの開催費用を堀は勤続年数に応じ全従業員へと還元したのだ。
「祝60年記念ということで、会社が口座にお金を入れて全員に配ってくれたんです」「パートや正社員に肩書きに関係なく、一律にもらえたのがうれしかったです。励みになります」と、社員たちは語る。
7年前に兄を亡くして以来、堀はひとりで経営を担ってきた。そして兄が亡くなった時、父と兄から叩き込まれた教えを決して忘れないために、全社員が持つクレドを作った。
「兄や父が元気だったらどういうことを言うか。そういうことが書いてあります」(堀)
数年前、そこへ書き込んだのは「社員はハワイ、パート社員は東京ディズニーランドに行きましょう」という一文。売り上げ100億円を達成した暁には全従業員に豪勢な旅行をプレゼントするという宣言だった。
「これを配った時には、冗談だ、不可能だと思われたのですが、達成をして、翌年に社員全員でハワイに行ってまいりました」(堀)
全ての従業員が仲良く手を携えてがんばれば、どんな時代でも生き残っていける。親子3人の思いは、今もホリの菓子作りに生き続けている。
~村上龍の編集後記~
「お菓子は人を笑顔にする」創業以来の、ホリの企業理念だ。
だが、お菓子は、作り手にも幸福をもたらすのだと、堀さんと話してそう思った。
「もう経営継続は無理だ、店を畳むが、帰ってくるな」という父親の一報に接し、薬剤師として一家をなしていた堀兄弟は故郷に戻り、家族一丸となって事業を再興させる。
まるで心温まる映画を見るようだ。おいしいお菓子の数々は、そうやって生まれた。
家族の愛情が、お菓子開発への強いモチベーションとなり、努力や工夫は尽きることなく、そして、多くの人の笑顔につながっていく。
<出演者略歴>
堀昭(ほり・あきら)1953年、北海道生まれ。1975年、武田薬品工業入社。1981年、堀製菓入社、翌年ホリに改称。2007年、ホリ社長就任。
source:テレビ東京「カンブリア宮殿」
※本記事はMAG2 NEWSに掲載された記事です(2017年12月12日)