実は海外で使える日本語。中国に逆輸入された「漢字」5選
列車
最後は旅行の移動に欠かせない「列車」。英語で「train」ですね。「train」の語源である「tra」は、「tractor(トラクター)」などでも使われている「引く」という意味です。どうしてここから「列車」という翻訳語が思い浮かんだのでしょうか。
あらためて「train」の意味を調べてみると、2両以上の電車という意味があるとわかります。
先頭車両が後続の客車を引っ張って進むスタイルが大前提の言葉であり、実際に日本人が欧米で目にしたtrainはすべてが連結車だったはず。そこで車両が列になって進む、「列車」という訳語が生まれたのかもしれませんね。
なお、「列車」は中国語の簡体字で以下のように表記します。
簡体字とは、中華人民共和国で1966年~1977年まで続いた文化隊革命で制定された、文字表記の方法です。複雑な漢字をもっとシンプルに表記する動きで、「車」も簡潔にこの字を用いられています。
「lie↓」と「che→」という語尾で発音してみてください。
今回は日本で生まれた漢字が、中国に逆輸入されたケースを紹介してきました。そもそもなぜこのような逆輸入が起こったのかといえば、その背景には中国と日本の歴史の違いが関係しています。
江戸時代から明治時代へと移るなかでいち早く文明開化を成し遂げ、西欧の思想や文化を大量に日本は輸入してきました。熱心に訳語をつくり、自分たちの母国語にさまざまな言葉を増やしてきた歴史があります。
一方でそのころ、中国は清の時代でした。新王朝は1912(明治45)年まで続きました。その時代、欧米列強を「蛮夷」と見下してきた歴史が中国にはあります。
しかし、さすがに清も終わりが近づくと海外の先進文明を取り入れなくてはと、学者が積極的に外に目を向けるようになりました。
とはいえ、現在とは違い西欧はとても遠い場所です。一方で日本海を隔てたすぐ近くには、西欧文明をいち早く取り入れて近代化に成功した日本がありました。
そこで中国の人が日本に年数百人から1,000人以上のペースで留学をしたといいます。その結果、日本で生まれた和製漢語が、大量に中国に持ち帰られたのですね。
なかには、
<人文科学と社会科学用語の約70%は日本来源語である>(矯遠峰等『新日 漢詞典』増訂版 瀋陽遼寧出版社より引用)
という主張までもあります。日本と中国は共有する言葉をたくさん持つ国民同士なのですね。
いまは新型コロナウイルスの影響で渡航もままならない状況ではありますが、こういった共通点を探して現地でコミュニケーションを取ってみると、新たな発見があるかもしれません。
- 参考
- 化石とは何か – 来て!見て!感激!大化石展
- 和製漢語-漢字原子論 : 漢字の成り立ち
- 中国語における改革開放後新出の日本来源語について – 呉夫迎
- 中国における和製漢語の受容 – 殷菁
- 中国語の中の日本語(Chinese Borrowings from the Japanese Language) – 陳生保(Chen Sheng Bao)
- 日中語彙交流における近代訳語の受容と変容 : 民国期の恋愛用語を中心に – 清地ゆき子
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